だるくてふつう通信Vol.1「お稲荷様へのお願い」

稲荷神社で有名なのは京都の「稲荷伏見大社」だ。

稲荷様は穀物・農業の神だが、現在は商工業を含め産業全体の神として信仰されている。

稲荷伏見大社には一度修学旅行で訪れたことがある。あの赤い鳥居が続く光景が異世界へ続く入り口のようで今でも目に焼き付いている。

さて、僕が生まれ育った地域にも稲荷神社があった。調べてみると稲荷伏見大社より贈位された神社のようだ。なるほど確かに地元の稲荷神社は稲荷伏見大社のように赤い鳥居がたくさん並んでいる。しかし稲荷伏見大社とは違い、地元の稲荷神社は地元の人しか訪れないような、小さな稲荷神社だった。

僕が中学生の時、まだスマホもなかった時代。よく使っていた携帯ラジオをなくしてしまった。どこを探しても見つからない。

困った様子の僕を見たばあちゃんは「お稲荷さんに頼んでみよう」と言い始めた。

神様仏様お稲荷様への信仰が薄い僕は神頼みなんてまっぴらごめんだった。そんなことより新しく携帯ラジオを買ってほしいと心の中では思っていた。

近所の稲荷神社に行くのかと思いきや、ばあちゃんはハサミと紐をとりだしてきた。

ばあちゃんは滔々と説明を始めた。

①ハサミとヒモを用意する
②ハサミをヒモでぐるぐる巻きにして縛る
③それを暗室に隠す
④ハサミに「解いてほしかったらお稲荷様に頼んで
    探してる物を見つけられるようにして」と頼む
⑤最後に「見つけられたら油揚げをもっていく」と言う

ハサミへの完全な脅しである。ハサミが得すること1つもないではないか。

こんなことで本当に見つかるのか……全く信じていなかったが、ばあちゃんの目は本気だった。

とりあえずやってみて、見つからなければ新しくラジオ買ってもらおう…そう思いながら、ばあちゃんに言われたとおりに行った。

そして15分後くらいに、なんと携帯ラジオが見つかるではないか。しかも先程アレほど探しても見つからなかった自室で。

携帯ラジオが見つかっ有頂天の僕をばあちゃんは「稲荷神社にお稲荷さん持っていきなさい。じゃないと罰があたる」とすごい剣幕で言ってきた。

ばあちゃんの迫力に圧倒され、僕は冷蔵庫に入っていた油揚げを持って稲荷神社へと向かった。

稲荷神社はいつものように人はだれもいない。しかし、そこには誰かに見られているような視線を感じた。神様仏様お稲荷様を信じていない僕も、初めて「いる」ということを感じずにはいられなかった。

それから数年が経ったある日のこと。お稲荷様の不思議な体験を思い出していた僕は、ばあちゃんに鋏とお稲荷様の関係について尋ねみた。

しかしばあちゃんはそのことを覚えていなかった。

不思議なくらい覚えていなかった。教わったやり方を教えても「全く何の話かわわからない」と言うのだ。まだ当時はボケるような年齢ではなかったし、ばあちゃんが嘘をついているようにも見えない。

あの時、僕は狐に遊ばれたのではないか。本当に狐につままれたのかもしれない。

稲荷神社を見かけるとこのことを思い出す。